肉や刺身などの処理や、スライスのしやすさに長ける「筋引き包丁」は、業界の方にとって必須のプロ向け包丁。
しかしながら、家庭での普及度が低いこともありレビューやクチコミが少なく、「とても切れる」と書いてあっても、プロが刃付けしたばかりの新品包丁であれば当然のこと。
また、ランキングサイトでは売れている個数や売上をベースに評価しているため、包丁は最低でも半年~1年ほど使っていないと、実際の使用感を判断するのは難しいと言えます。
そこで、1日30kg以上の肉を捌き続けていた経験(魚も少し)や、社内肉切りコンテストで入賞した実績などが、少しでも包丁選びに悩むあなたのお役に立てればと思い、今まで長く使用した筋引き包丁を評価、比較しました。
こんなあなたに役立つ記事です。
・上級者の好みに合わせた、詳細な使用感を知りたい
・初心者にもオススメの筋引き包丁を探している
・デザインも重視して包丁を選びたいけど、性能が不安
・後輩へのプレゼントや、新人のために準備しようと思っている
それでは、まず選び方から解説!
筋引き包丁(肉切り包丁)とは? 柳刃との違い、選び方、特徴
先にも述べましたが、筋引き包丁(肉切り包丁)とは、肉や刺身を切る時に使われる包丁で、長くて細い形状が特徴です。
長い理由は、断面を美しく仕上げるため。
長さが無い包丁では、一回の引き切りや押切りでは刃渡りが足りず、ギコギコと往復して切らないといけませんよね。
長い筋引き包丁であればスーッと一回で切り終えられるようになり、肉や刺身の断面が綺麗に仕上げられ作業も捗ります。一般的には23cm~27cm。
また、形状が細い理由は、肉とスジの間などの狭い場所での角度調整が容易になることと、肉と包丁の面が接する面積を少なくすることで摩擦(抵抗)が減るためです。牛刀や三徳などの幅広の包丁であると、切っている途中の角度調整が困難ですからね。
上記の点を踏まえ、筋引き包丁は、料理のクオリティと、難易度の高いブロック肉の切り分けなどに活用されるため、自ずと家庭には需要の低い包丁となっています。
同じような用途で柳刃包丁という和包丁がありますが、こちらは片刃専用であるため、両側から砥石を挟んで研ぐシャープナーなどは使用出来ません。
逆に言えば、筋引き包丁は両刃であるためシャープナーも使用できますが、実際は片刃に研いでいる方の方が多いため、両刃・片刃どちらにも対応できるという利点がありますね。
また、筋引きだけに関わることではありませんが、包丁の材質は主に、鋼とステンレスの2種類に分けられます。
鋼:切れ味良く、研ぎ易い。ただし錆びやすい。
ステンレス:切れ味普通、研ぎにくい代わり、錆びにくい。
上記の基本的な特徴を理解した上で包丁を選んでいけば、思っていたのと違う!といったトラブルも少なくなるでしょう。
では、個人的ランキングNo.1の筋引き包丁から紹介します。
切れ味と研ぎやすさ特化 ミソノ「UX10」
まず最初に紹介させて頂くのは、私が最も長く使用していた、ミソノUX10です。(ユーエックステン)
仕込みも営業も、頻繁に包丁を使う方にメリットが多いため、プロ用の最高峰包丁と言えますが、初心者~中級者でも十分使え、ステンレスと鋼の中間に位置する素材を使用しています。
通常プロの方は、研ぎにくいステンレス材を嫌う傾向にありますが、UX10の特殊鋼は通常のステンレスより研磨性が高く、研ぎ時間を短縮でき、切れ味を容易に保てるメンテナンス性が最大の特徴。
更に、鋼並みの切れ味がありながら、全然錆びないため、忙しい営業中の作業に重宝します。
しかし、自分が使用しているからと言って決して100点満点ではありません。
刃が薄く仕上げられていることで、軽く、しなりやすいため、大きな塊肉を相手にすると、真っすぐに振り下ろす力が横にも分散し、包丁が湾曲してしまうのです。
そのため、骨肌や筋をV字に取り除きたいなどの包丁の切っ先だけを使用するシチュエーションでは、硬くて曲がらない包丁の方が使いやすいというのが正直なところ。
ミソノ440シリーズも使ったことはありますが、UX10に比べて刃が分厚いため、湾曲する心配はありませんね。ただし、ミソノ440は重いです。
・かなり研ぎやすい
・切れ味は最高峰
・錆びにくい
・材質自体は硬いが、薄くてしなる。
・値段が高い
・切れ味の持続性は普通
和牛や国産牛は、赤身部分は柔らかいですが、スジは分厚く堅いため不向き。中間価格帯の肉を大量に捌く方は仕事を楽できる包丁と言えますね。
また、魚の皮引きにも良い感じです!
初心者にオススメ 河村刃物「堺菊守」
お次は私の1本目の包丁、堺菊守。(さかいきくもり)
価格は控えめかつ、紹介する包丁の中では最も鋼の純度が高いため、切れ味抜群の筋引き包丁です。
新入社員や、初心者のために筋引き包丁を準備しなければならないのであれば、様々なメリットがあり、コストの低さ、包丁は錆びるという体験、研ぎを怠れば切れず、研ぎを習得すればとても切れるという、包丁本来の扱い方を学ぶことが出来ます。
私も最初に24cmの堺菊守、2本目も27cmの同じ包丁を使っていたおかげで、今でも周りの社員さんから、乾拭きが徹底されていると評価されます。
ちなみに、社内のコンテスト初出場で60人中3位になった時の包丁はこの堺菊守であり、その時には27cmであるはずの包丁は、研ぎすぎて25cmになっていました。
コンテスト決勝では一番早く切り終わっていましたが、私個人の切り方が社内の基準と違っていたことでポイントを落としたため、決してこの包丁のせいで負けたわけではありません!
まとめると
・切れ味良い
・研ぎやすい
・安い
・錆びやすい
・長切れしない
まさに鋼包丁の特徴そのままな包丁ですね。
上級者向け 青木刃物「堺孝行33層ダマスカス鋼」
お次は皆さん一度は憧れる、ダマスカス鋼の包丁です。とにかく、かっこいい。
今なら使いこなせるかもしれませんが、ダマスカス鋼という素材自体は、みなさん言うように研ぐのに時間がかかることを実感しました。
一度研いだら切れ味が長く持続すると言っても、どんな包丁であれすぐに8割程度までは切れ味は落ちるもの。
モンスターハンターでも、最大の切れ味が「紫」だったとしても、実質は「白~青」で戦う時間がほとんどですよね?(世代ですみません)
硬い素材の砥石を持っていたり、研ぐ技術が高かったりなど、包丁以外の設備や技術が揃っている上級者には問題なく使いこなせる、そんな包丁だと言えますね。
切れ味に関しては、先に述べたミソノUX10と同等に良く切れましたが、まだ初心者を卒業したての当時は、刃も分厚ければ素材も硬く、研ぐ作業に時間がかかってしまったため、最も短命に終わりました。
・抜群の切れ味と持続性
・肉が包丁にくっつきにくい(はがれやすい)
・重みを利用した押切りが快適
・研ぐのに時間がかかる
・値段が高い
さて、次の包丁は、中でもオススメの逸品ですよ!
最強の包丁 マサヒロ「正広別作」
業界ではご存じの方も多い「正広別作」は流石にオススメから外せません。
まず初めに、意外と語られていないマサヒロシリーズの、正広作と正広別作の違いですが、正広作は一般的に、あらゆる場面での使用を想定した万能包丁あるのに対し、正広別作は、肉用として特別に製作されたシリーズを指します。
刃も分厚くしっかりしており研ぎやすい上に、切れ味の持続性も高く、鋼包丁ながらも少しばかり錆びにくい。
肝心の切れ味ですが、研ぐ技術がある程度あれば、ミソノUX10やダマスカス鋼にも負けず、両者のコンディションによっては別作が上回ることも普通にあります。
同じ包丁に対し、手研ぎとシャープナーの併用だけはどの包丁でもやってはいけませんが、キョーセラのシャープナーしか使わない派の先輩が、10年以上使用していると言っていた正広別作の、十分すぎる切れ味を体感した時の驚きは忘れられません。
そして、この瞬間的な切れ味、切れ味の持続性、研ぎ易さ、の3拍子が揃った高性能にも関わらず、安すぎる価格が最強と呼ばれる所以です。
そんな万能な筋引き包丁をなぜ私が今、使用していないか。
それはみんな持っているから(笑)
とある焼肉屋の仕入れ先である食肉卸業者の見学に行った際にも、職員さん全員がこの包丁を使っていたのには本当に驚きました。
またその他の欠点を上げるとすれば、刃から柄(持ち手)にかけての形状が滑らかではなく、段になっているため、清掃していない人の正広は汚れが溜まっていることがありますね。
・切れ味は20,000円前後の高級包丁に劣らない
・平均以上の研ぎやすさ
・平均以上の持続性
・価格が安い
・使用者が多い
・グリップの付け根に汚れがたまる形状
おそらく、どこの包丁レビューサイトでも必ずオススメに入って来ますね。
※2024年1月現在、Amazonでは「別作」の取り扱いが無いようですが「正広作」でも同様に近い性能でオススメです。
黒い包丁 青木刃物「堺孝行 黒影」
最近購入して現役で使用している、一際目立つ黒い包丁です。
筋引きだけが、どこのショップでも品切れでしたが、ふと見たら在庫が確保されていたため、すぐに購入してしまいました。
和包丁でもお肉に使えるの?と疑問に思うかもしれませんが、洋包丁と比べてやや重みがあり、押切りやスリット(切れ目を入れる工程)においては包丁は重い方が切りやすいため相性抜群です。
また、大きな塊肉相手にも、物怖じしない刃の厚さが、今使っていて最も好きな部分です。
切れ味はUX10と同等ないし僅かに劣る程度であり、非常に研ぎ易いですが、かなり長めのグリップが体側にはみ出して来ますので、慣れるまで1ヶ月ほど時間はかかりました。
あと、なんと言いますか、まな板についた脂を包丁の背中でこすり取る時ってありませんか?
私は癖でよくしますが、脂をこすり取るには、背中がデコボコしていて、まな板との間に隙間が出来るため脂を取り切れないのが少し不満です。(伝わりますか?このムーブ。)
性能や使い心地自体は初心者にもオススメできるほどですが、まだ研ぎ方が確立されていない人の場合は、せっかくの美しい黒いコーティングを削ってしまう可能性がありますので、中級者~プロの方が綺麗に使ってこそ絵になる包丁です。
・刃が丈夫で重みがあるため、大きな塊肉相手にも安定する
・フッ素コーティングのおかげで錆びにくい
・切れ味良く、研ぎ易い
・グリップが長く、使い慣れるまで時間がかかる
・値段が高い
・背中がデコボコしていて、まな板の脂を削り取りにくい
みんなから「何それ?!」と注目を浴びる瞬間を楽しめる方に最適です。笑
スミカマ 霞(KASUMI)チタンコーティング
こちらは私自身、非常に気になってはおりますが、使用経験がないのでオマケの一本としてご紹介します。
まさかの青い包丁!美しい輝きと、曲線美が特徴のスミカマの霞KASUMIシリーズ。
軽やかな包丁捌きで有名な、YouTuberの「気まぐれクック」さんが使用した際、その驚く切れ味と美しいデザインが話題となり、一時30,000~40,000円まで取引金額が高騰しましたが、現在は元々の定価である10,000円前後まで落ち着いた様子。
カラーリングもブルー以外に多数あり、おもちゃのように見えてしまいますが、包丁の一級生産地として有名な岐阜県関市のメーカーともあり切れ味は十分とのこと。
私が興味を引かれる理由としては、これまで紹介した包丁より短い20cmである点とその材質にあります。
私の以前の現場では、仕込み時間に全ての肉を切り終えるオペレーションであったため、営業中に包丁を触ることはほとんどありませんでしたが、現在はオーダーをしながらお肉を切ることが多く、作業台に大きくて錆びやすい包丁が一本あると、オーダーに集中できないため、取り回しの良い大きさかつ、錆びにくい包丁を一本用意したいと考えているため。
また、野菜のカットには、純粋な鋼の包丁は、金属臭の付着や食材の劣化の原因ともなるため適しておらず、ステンレス系の方が向いているとされており、チタンコーティングされていることでそれを抑制できるメリットもあります。
そこで、錆びに強いモリブデンバナジウム鋼を使用していて、チタンコーティングされたコンパクトな、おまけになんか青くてカッコ良い「霞KASUMI」ほど、今の自分の需要がマッチした包丁はないと思っています。
ただし、モリブデンバナジウム鋼は、ステンレスよりも耐摩耗性が高いため、切れ味が落ちにくい反面、研ぎにくいというデメリットもあり、包丁研ぎに自信のない方は注意が必要ですね。
・20cmでコンパクト
・肉や魚はもちろん、野菜にも使用できる
・カラーリングが豊富
・ステンレスより研ぎにくいとされる材質
・業務用ではなく家庭用に部類される
肉切り包丁(筋引き)オススメ6選
それでは、まとめです!
ミソノ UX10:切れ味と研ぎ易さは最高。刃が薄いため大きな塊肉には向かない。
河村刃物 堺菊守:初心者が成長できる包丁。ポテンシャルは高い。
青木刃物 堺孝行ダマスカス:切れ味の持続性が最も高い。初心者にはオススメできない。
マサヒロ 正広別作:業者も愛用するコスパ最強包丁、こだわりなければコレ一択。
青木刃物 堺孝行黒影:バランス良く高性能。独特な形状を使いこなせるか鍵。
スミカマ 霞KASUMI:コンパクトで万能。包丁研ぎに慣れていない人は懸念。
更に上級者向け、もっとこだわりを持つ方には、各包丁メーカー各ブランドのハイエンドモデルだけの筋引き包丁をまとめた、以下記事も楽しんで頂けると思いますので是非ご覧ください。
あなたの肉切りが楽しくなり、作業が捗る手助けになれば幸いです。
焼肉プランナーでした!
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